
自動車史に残るV10自然吸気エンジンのフィナーレを飾るにふさわしい、究極のスーパーカーが存在します。それが、ランボルギーニ「ウラカン STO(Super Trofeo Omologata)」です。デイトナ24時間レースを3度制したレーシングカーの遺伝子をそのまま公道仕様へと落とし込んだこのモデルは、単なる高性能車ではありません。なぜ今、ウラカン STOが世界中のエンスージアストから熱狂的な「人気」を集めているのか。その理由は、圧倒的なパフォーマンスだけでなく、内燃機関時代の最後を象徴する希少性と芸術的なエンジニアリングにあります。
本記事では、公式データを基にそのスペックを紐解きながら、STOが選ばれる理由と他のモデルとの違いを徹底解説します。
この記事のポイント
- ウラカン STOが「公道仕様のレーシングカー」と呼ばれる技術的根拠
- 圧倒的な人気を支える「最後のV10 NA」という希少価値
- STO、TROFEO、PIOGGIAの3つの走行モードとドライビング体験
- 通常のウラカンや競合他車と比較した際の決定的な違い
公道を走るレーシングカー「STO」のコンセプトとデザイン

ウラカン STOは、ランボルギーニのモータースポーツ部門であるスクアドラ・コルセが培った技術の結晶です。名前にある「STO」はスーパー・トロフェオ・オモロガータ(Super Trofeo Omologata)の略であり、文字通りワンメイクレース車両「ウラカン スーパートロフェオ EVO」の公道認証モデルであることを意味しています。ここでは、その過激なデザインと設計思想について深掘りします。
「コファンゴ」に見る空力性能への執念
- 一体成型パーツの採用:ボンネット、フェンダー、フロントバンパーを一体化した「コファンゴ(Cofango)」を採用。
- 軽量化とアクセス性:伝説の名車「ミウラ」にインスパイアされた構造で、軽量化と整備性を両立。
- エアフローの最適化:フロントダクトからの空気の流れがダウンフォースを最大化し、ラジエーターの冷却効率を向上。
ウラカン STOの外観で最も特徴的なのが、フロントセクション全体が前方に開く「コファンゴ」です。これは単なるデザインギミックではありません。イタリア語のCofano(ボンネット)とParafango(フェンダー)を組み合わせた造語であり、軽量炭素繊維で作られています。公式データによれば、エクステリアパネルの75%以上にカーボンファイバーを使用しており、乾燥重量はわずか1,339kgを実現。複雑なエアロダイナミクス構造は、コーナリング時の安定性を高めるだけでなく、見る者に「只者ではない」という強烈なインパクトを与えます。
レーシングカー直系のリアウィングとエアスクープ
- 手動調整式ウィング:3段階に調整可能なリアウィングにより、サーキット特性に合わせたダウンフォース設定が可能。
- シャークフィン:コーナリング時のヨー角に対する安定性を高め、ウィングへの気流を整える垂直フィン。
- ルーフエアスクープ:エンジンへの吸気効率を高めると同時に、V10エンジンの咆哮をキャビンへと響かせる。
リアビューの迫力も、STOの人気を支える大きな要素です。巨大なリアウィングは、エアロバランスを走行環境に合わせて変化させることができ、最高速アタックからテクニカルなサーキット走行まで対応します。また、エンジンフード上のエアスクープとシャークフィンは、スーパー・トロフェオの技術を直接反映したもの。これらはすべて「機能美」として成立しており、所有欲を満たす圧倒的な存在感を放っています。
スペックから読み解く走行性能とV10エンジンの魅力

デザイン以上にウラカン STOを特別な存在にしているのが、その心臓部と足回りです。現代のスーパーカーがターボ化やハイブリッド化へ進む中、あえて自然吸気(NA)の大排気量エンジンと後輪駆動(RWD)を選択した点に、ランボルギーニの哲学が宿っています。
640CVを発生する最強のV10 NAエンジン
- レスポンスの鋭さ:ターボラグのないリニアな加速と、8,500rpmまで突き抜ける高回転型ユニット。
- パワーウェイトレシオ:2.09 kg/CVという驚異的な数値を達成し、0-100km/h加速は3.0秒。
- 後輪駆動の採用:4WDではなくRWDを採用することで、よりダイレクトで挑戦的なハンドリングを実現。
最高出力640CV(470kW)、最大トルク565Nmを発生する5.2リットルV10エンジンは、ドライバーの操作に対して神経質なほどに鋭く反応します。公式スペックにおける0-200km/h加速はわずか9.0秒。しかし数字以上に重要なのは、その「感情的な」ドライビングフィールです。アクセルを開けた瞬間の吸気音、シフトダウン時のブリッピング、そして高回転域での官能的なサウンドは、電動化が進む現代において極めて希少かつ贅沢な体験と言えます。
F1技術を投入したCCM-Rブレーキシステム
- 圧倒的な制動力:従来のカーボンセラミックブレーキと比較し、ストレス耐性が60%向上。
- 熱管理性能:最大制動力が25%アップし、サーキットでの連続走行でもフェードしない耐久性。
- 専用の冷却設計:ブレーキ冷却専用のエアダクトとデフレクターを装備。
「速い車」であるためには「止まれる車」でなければなりません。STOにはブレンボ製のCCM-Rブレーキが採用されています。これはF1マシン由来の素材技術を応用したもので、通常のカーボンセラミックディスクよりも熱伝導率が4倍高く設計されています。時速100kmから完全停止までの距離はわずか30.0m。この強靭なストッピングパワーが、ドライバーに限界域へ踏み込む自信を与えてくれます。
ドライバーをその気にさせるインテリアと走行モード

ドアを開けた瞬間に広がる世界もまた、レーシングカーそのものです。快適装備を最小限に削ぎ落とし、機能性を追求したコクピットは、ドライバーを「パイロット」へと変貌させます。
カーボンに包まれたスパルタンな室内空間
- フルカーボンインテリア:ドアパネル、シート、フロアマットに至るまでカーボン素材(カーボン・スキン)を使用。
- チタン製ロールバー:剛性向上と安全性確保のため、リアにはアクラポヴィッチとの共同開発によるチタン製ロールバーを採用。
- 直感的な操作系:ステアリング上のスイッチで走行モードを即座に切り替え可能。
軽量化への執念は室内にも表れています。ドアノブは赤いプルストラップに置き換えられ、シートは骨格がむき出しのカーボンバケットシートを採用。これらは不便さではなく「本気度」の証として、オーナーの満足度を高める要素となっています。また、タッチスクリーンにはヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)が搭載され、タイヤ温度やブレーキ温度、ラップタイムなどのテレメトリーデータをリアルタイムで確認できます。
3つの専用ANIMAモード:STO、TROFEO、PIOGGIA
- STOモード:公道走行や曲がりくねった道を楽しむためのデフォルト設定。サスペンションはしなやかに動く。
- TROFEOモード:ドライ路面のサーキットで最速タイムを叩き出すための設定。ESC介入を最小限に抑制。
- PIOGGIAモード:ウェット路面専用。トラクションコントロール、トルクベクタリング、ABSを雨天用に最適化。
ウラカン STOのANIMAシステム(走行モード切り替え)は、従来の「STRADA(街乗り)」「SPORT」「CORSA」とは異なります。特筆すべきは「TROFEO」モードでの挙動です。このモードでは車両制御システム「LDVI」がグリップ限界を予測し、驚異的なコーナリングスピードを実現します。一方で「PIOGGIA(雨)」モードを備えている点が、純粋なレーシングカーとは異なり、あくまで公道走行を前提としたモデルであることを示しています。
| 比較項目 | ウラカン STO | ウラカン EVO RWD | ウラカン ペルフォルマンテ |
| 駆動方式 | RWD(後輪駆動) | RWD(後輪駆動) | 4WD(四輪駆動) |
| 最高出力 | 640 CV | 610 CV | 640 CV |
| 乾燥重量 | 1,339 kg | 1,389 kg | 1,382 kg |
| 0-100km/h | 3.0 秒 | 3.3 秒 | 2.9 秒 |
| 空力特性 | コファンゴ、調整式ウィング | 標準エアロ | ALA(アクティブエアロ) |
| 特徴 | 公道仕様のレーシングカー | 純粋な運転の楽しさ | トラックレコードブレーカー |
まとめ

ウラカン STOがこれほどまでに人気を博している理由は、単なるスペックの高さだけではありません。「ランボルギーニ最後のV10自然吸気エンジン搭載車の一つ」という歴史的価値、そして「ナンバープレートを付けたレーシングカー」という男心をくすぐるコンセプトが、富裕層やカーマニアの琴線に触れるからです。
- 希少性:電動化シフト前の最後の純内燃機関スーパーカーとしての資産価値。
- 体験価値:RWDとNAエンジンの組み合わせがもたらす、他では味わえないダイレクトな操作感。
- 所有満足度:コファンゴやカーボンボディなど、一目で特別なモデルとわかる圧倒的なデザイン。
もしあなたが、純粋な速さと内燃機関の官能性を最後に味わい尽くしたいと考えているなら、ウラカン STOは間違いなく、ガレージに収めるべき一台です。それは単なる移動手段ではなく、自動車の歴史における一つの到達点を所有することを意味します。