
「そろそろEV(電気自動車)も選択肢に入れたいけれど、テスラのような『走るスマホ』は少し抵抗がある」。もしあなたがそう感じているなら、フォルクスワーゲン(VW)のフル電動SUV『ID.4』は、最も現実的で有力な答えになるかもしれません。
「ID.4はどう?」という問いに対する結論を先に言えば、それは「驚くほど違和感のない、完成されたフォルクスワーゲン」です。アクセルを踏んだ瞬間の唐突な加速や、独特な操作系といった「EV特有のクセ」が見事に消されています。
この記事では、自動車評論の視点からID.4の実力を徹底解剖します。カタログスペックだけでは見えてこない、日本の道路事情における「扱いやすさ」や、競合車と比較した際の「選ぶべき理由」について、メリットだけでなく注意点も含めて詳しく解説していきます。
この記事のポイント
- テスラや他社EVとは一線を画す「内燃機関車からの乗り換えやすさ」
- 全長4.5m級のSUVとは思えない「驚異的な小回り性能」の秘密
- Model Yやアリアと比較した際のID.4の立ち位置とコストパフォーマンス
- 実際に所有する上で知っておくべき充電性能と航続距離のリアル
ID.4の「走り」はどう?後輪駆動(RR)がもたらす恩恵
多くのEVが「モーターの強烈な加速」を売りにする中、ID.4は全く異なるアプローチをとっています。それは「意のままに操れる、上質な移動空間」です。VWがEV専用プラットフォーム「MEB」で目指した走りの本質について解説します。
1. 驚くべき小回り性能:最小回転半径5.4m
- クラス最小レベルの取り回し:後輪駆動(RR)レイアウトにより、フロントタイヤの切れ角を大きく確保。
- 日本の狭い道でも安心:ボディサイズを感じさせないUターンや車庫入れが可能。
- 他車との比較:同クラスのSUVが5.7m前後であるのに対し、Golf並みの小回りを実現。


ID.4の最大の特徴であり、日本のユーザーにとって最大のメリットと言えるのが、この「小回り性能」です。
通常、全長4.5m、全幅1.85mのSUVといえば、狭い路地や古い駐車場では気を使うサイズです。しかし、ID.4は駆動用モーターをリアに配置するRR(リアモーター・リアドライブ)を採用しました。これによりフロント部分にエンジンやドライブシャフトが存在しないため、前輪を大きく切ることが可能になっています。
最小回転半径5.4mという数字は、ひと回り小さい「Golf」と同等です。ショッピングモールの狭い駐車場や、住宅街のクランクなどで、その扱いやすさに感動することでしょう。「SUVは運転が大変そう」という懸念を、ID.4は構造的なアプローチで解決しています。
2. 「EV酔い」しない自然な加減速
- 内燃機関に近いフィーリング:ガソリン車から乗り換えても違和感のないペダル設定。
- 回生ブレーキの制御:Dレンジではコースティング(滑走)を多用し、滑らかな走行を実現。
- シームレスな加速:背中を蹴飛ばされるような加速ではなく、リニアで息の長い加速感。

多くの専門メディアの試乗記でも高く評価されているのが、この「自然なドライビングフィール」です。
一部のEVは、回生ブレーキ(アクセルを離した時の減速)が強すぎて、乗員が前後に揺さぶられる「EV酔い」を引き起こすことがあります。しかし、ID.4の「Dレンジ」は、アクセルを離すとスルスルと滑らかに転がるコースティング走行を基本としています。
もちろん、ブレーキを踏めば回生ブレーキが立ち上がり、強力に減速エネルギーを回収しますが、その連携は極めてスムーズ。長年クルマ作りを続けてきたVWだからこそできる、熟成された「人馬一体」ならぬ「人車一体」の感覚があります。
3. 低重心と高剛性が生む乗り心地
- バッテリー配置による低重心化:床下にバッテリーを敷き詰めることで、どっしりとした安定感を実現。
- 重厚な乗り味:車重はあるが、サスペンションがしなやかに動き、路面の凹凸を吸収。
- 静粛性の高さ:エンジン音がないだけでなく、風切り音やロードノイズも徹底的に遮断。

| 比較項目 | VW ID.4 (Pro) | Tesla Model Y (RWD) | Nissan Ariya (B6) |
| 駆動方式 | RR (後輪駆動) | RWD (後輪駆動) | FWD (前輪駆動) |
| 最小回転半径 | 5.4m | 5.8m | 5.4m |
| 乗り味の特徴 | しっとり・重厚 | 硬め・スポーティ | 軽快・ラグジュアリー |
実用性とインテリアはどう?「未来感」と「使い勝手」のバランス
デザインはシンプルでクリーンですが、奇をてらいすぎていないのがID.4の特徴です。しかし、インターフェースに関しては賛否が分かれるポイントでもあります。
1. 居住空間とラゲッジスペース
- 広大な室内空間:MEBプラットフォームにより、クラスを超えた後席の足元スペースを確保。
- フラットなフロア:センタートンネルがないため、後席中央の乗員も快適。
- 実用的な荷室:通常時543L、後席を倒せば最大1,575Lという大容量。

ID.4のパッケージングは非常に優秀です。エンジンルームが不要なため、キャビンを前方に押し出し(キャブフォワード)、外見のサイズ以上に室内は広々としています。
特に後席のゆとりは特筆もので、大人3人が乗っても窮屈さを感じにくいでしょう。ラゲッジルームもスクエアで使いやすく、キャンプ道具やゴルフバッグの積載も容易です。「家族のためのファーストカー」として十分機能します。
2. デジタル化されたインターフェースの良し悪し
- 物理ボタンの削減:ほとんどの操作をタッチパネルとタッチスライダーに集約。
- 音声入力「Hello ID.」:エアコンやナビの操作を音声でサポート。
- 慣れが必要な操作系:パワーウィンドウのスイッチなど、一部独自性の強い操作ロジック。

ここは購入前に必ず実車で確認すべきポイントです。ID.4は物理ボタンを極限まで減らしており、エアコンの温度調整や音量調整もタッチスライダー(バーを指でなぞる操作)で行います。見た目は非常に先進的でスッキリしていますが、ブラインドタッチ(見ないで操作すること)には慣れが必要です。
また、運転席のパワーウィンドウスイッチが「REAR」ボタンを押して切り替える方式である点など、従来のVW車ユーザーでも戸惑う部分があります。ただ、ソフトウェアのアップデートによりレスポンスは改善傾向にあり、音声操作を活用することで解決できる場面も多いです。
3. 先進安全装備 IQ.DRIVE
- Travel Assist:全車速追従機能付ACCとレーンキープアシストを統合制御。
- 同一車線内全車速運転支援:高速道路での長距離移動疲労を劇的に軽減。
- 緊急時停車支援システム:ドライバーの急病時などに車両を安全に停止・解錠。

VWが誇る安全装備は標準でフル装備されています。特にTravel Assistの制御は非常に自然で、白線を認識する精度や、前走車への追随のスムーズさは世界トップレベルです。長距離ドライブの相棒として、これほど頼もしい機能はありません。
航続距離と充電性能はどう?「電欠」の不安に対する回答
EV購入の最大のハードルとなるのが「航続距離」と「充電環境」です。ID.4はこの点において、どのような実力を持っているのでしょうか。

1. 実用十分な航続距離
- 大容量バッテリー:Proグレードには77kWhの大容量バッテリーを搭載。
- WLTCモード:一充電走行距離は618km(Pro)。
- 実用航続距離:エアコン使用や高速走行を含めても400km〜450km程度は堅い。
カタログ値の618kmは、競合と比較しても優秀な数値です。実際の運用において、例えば「東京〜名古屋」間程度であれば、途中充電なしで走り切れるポテンシャルを持っています(走行条件によります)。
日常の買い物や通勤であれば、週に1回の充電で十分賄えるでしょう。この「余裕」こそが、EVライフのストレスを軽減する鍵となります。
2. 急速充電(CHAdeMO)への対応
- 最大94kW対応:日本の急速充電規格CHAdeMOに対応。
- 充電カーブの特性:高出力充電器を使用すれば、30分で十分な距離を回復可能。
- 充電ポートの位置:右後方に配置されており、日本の多くの充電スタンドで使いやすい。
90kW級の急速充電器を使用した場合、バッテリー残量警告灯が点灯した状態から80%まで約40分前後で回復可能です(外気温やバッテリー温度に依存します)。
また、VWは正規ディーラーに急速充電器(PCA:Premium Charging Alliance)の設置を進めており、アウディやポルシェのディーラーも含めた充電ネットワークを利用できるプランも用意されています。これは、公共の充電器が混雑している際に大きなアドバンテージとなります。
| モデル | バッテリー容量 | WLTC航続距離 | 急速充電対応 |
| ID.4 Pro | 77.0 kWh | 618 km | 最大 94kW |
| ID.4 Lite | 52.0 kWh | 435 km | 最大 50kW (※注) |


※Liteグレードは街乗り中心の仕様であり、充電受入性能も異なります。ロングドライブを想定するならPro一択と言えます。
まとめ:ID.4は「EVへの乗り換え」に迷う人の最適解

結論として、VW ID.4はどうなのか?
それは、**「ガソリン車から乗り換えても、何も我慢しなくていいEV」**です。
テスラのような「新しいガジェットを買うワクワク感」とは方向性が異なります。しかし、クルマとしての基本性能、ボディの剛性感、シートの作り、そして何より「安心して走れる」という信頼感においては、やはりドイツ車、やはりフォルクスワーゲンです。
読者への具体的な推奨事項:
- 「Pro」グレード推奨:予算が許す限り、大容量バッテリーのProを選んでください。リセールバリューやロングドライブの余裕が段違いです。
- 操作系の確認:必ず試乗して、タッチパネルやスライダーの操作感を体験してください。ここが許容できれば、不満はほとんど出ないはずです。
- 自宅充電の検討:ID.4の魅力を最大限引き出すには、自宅への普通充電器設置を強くおすすめします。
奇抜さよりも「質実剛健」なEVを求めるあなたにとって、ID.4は間違いなく最良のパートナーとなるでしょう。