
スイッチを入れると「パカッ」とヘッドライトが起き上がる、あの独特のギミック。リトラクタブルヘッドライトは、かつてのスーパーカーブームを知る世代にとっては憧れの象徴であり、若い世代にとっては新鮮なレトロフューチャーとして映る特別な装備です。
「ポルシェのリトラクタブルライト搭載車にはどんなモデルがあるの?」
「911以外のモデル(FRポルシェ)の評価はどうなの?」
「古い車だけど、維持するのは大変そう……」
そんな疑問や不安をお持ちではないでしょうか。現在、安全基準の変更などにより新車では見ることのできなくなったリトラクタブルヘッドライトですが、ポルシェの歴史においては、ブランドの革新性を支えた重要なアイコンでした。
この記事では、ポルシェがリトラクタブルヘッドライトを採用した主要モデル(914、924、944、928、968)の特徴から、それぞれの魅力、そして中古車選びで気になる維持のポイントまでを徹底解説します。これを読めば、あなたの感性に響く運命の「リトラポルシェ」が見つかるはずです。
この記事のポイント
- ポルシェのリトラクタブル採用4系統の特徴と違い
- トランスアクスルFRモデル(924/944/968)の進化の歴史
- ポルシェ928独特の「ポップアップ」機構の仕組み
- 購入時にチェックすべきリトラクタブル特有の故障リスク
なぜポルシェはリトラクタブルを採用したのか?

ポルシェといえば丸目のヘッドライト(911)というイメージが強いですが、実は1970年代から90年代にかけて、多くのモデルでリトラクタブルヘッドライトを採用していました。なぜ、あえて隠すデザインを選んだのでしょうか。
空力性能と北米市場への対応
- 空気抵抗の低減
- ヘッドライトの最低地上高規制
- デザインの自由度
最大の理由は「空力性能」の追求です。スポーツカーとして低いノーズを実現し空気抵抗(Cd値)を下げるために、ライトをボディ内部に格納するスタイルは理にかなっていました。
また、当時最大のマーケットであった北米(アメリカ)の安全基準も大きく関係しています。「ヘッドライトの最低地上高」に関する規制があり、低いノーズのまま基準を満たすためには、ライト使用時のみ位置が高くなるリトラクタブル方式が最適解だったのです。
911とは異なる新しいポルシェの顔
ポルシェにとって、リトラクタブルヘッドライトは「911以外の新しい時代のポルシェ」を象徴するアイコンでもありました。
リアエンジンの911に対し、エンジンをフロントに積むFRモデル(トランスアクスルモデル)や、ミッドシップモデルにおいて、911の伝統的なカエル目とは決別した、近未来的で鋭い顔つきを与えるために積極的に採用されたのです。
リトラクタブルヘッドライト搭載ポルシェ全モデル解説
ここでは、リトラクタブルヘッドライトを採用したポルシェの歴代モデルを詳しく解説します。
ポルシェ914:元祖ミッドシップの隠し目
- 登場年: 1969年
- 構造: ミッドシップ
- 特徴: ワーゲンポルシェの愛称
ポルシェとフォルクスワーゲンの共同開発で生まれた914は、ポルシェ初のリトラクタブルライト採用車です。角張った低いボディに完全に格納されるライトは、非常にクリーンなスタイリングを実現しました。手動ではなくモーター駆動で開閉し、軽量なスポーツカーとしての地位を確立しました。
トランスアクスルFR(924 / 944 / 968)
- 登場年: 1975年〜1995年
- 構造: FR(トランスアクスル)
- 特徴: 水冷エンジンの新時代
924から始まり、944、そして最後の968へと続くこのシリーズは、水冷エンジンをフロントに積み、トランスミッションをリアに配置する「トランスアクスル」レイアウトが特徴です。
- 924/944: 長方形のライトカバーがボンネットとフラットになるデザイン。
- 968: 928に似た、ライトユニット自体が起き上がるポップアップ式に変更(※厳密にはカバーがなく、ライトがそのまま露出して起き上がる独自スタイル)。
これらはハンドリングの良さから、今なお「隠れた名車」として再評価されています。
ポルシェ928:唯一無二のポップアップ式
- 登場年: 1977年
- 構造: FR(ラグジュアリーGT)
- 特徴: 目玉がこちらを見ているような独特な動き
ポルシェのフラッグシップとして開発された928のライトは非常にユニークです。一般的な「隠れる」リトラクタブルとは異なり、消灯時でもレンズ面が上を向いて露出しており、点灯時はそのまま前方に起き上がります。この愛嬌と迫力が同居したデザインは928だけの特権です。
| モデル名 | エンジン位置 | ライト形状 | 製造期間 | 現在の市場傾向 |
| 914 | ミッドシップ | 完全格納型 | 1969-1976 | 価格上昇中・タマ数少 |
| 924/944 | フロント | 完全格納型 | 1975-1991 | 比較的手頃だが上昇傾向 |
| 928 | フロント | ポップアップ型 | 1977-1995 | V8搭載で維持費高め・人気再燃 |
| 968 | フロント | ポップアップ型 | 1991-1995 | 最終FRとして高値安定 |
購入前に知っておきたい!維持とトラブルの現実
憧れのリトラクタブルポルシェを手に入れる前に、特有のトラブルや注意点を知っておくことが重要です。
モーターとリレーの故障リスク
- 片目だけ開かない(ウインク状態)
- 開閉の動きが遅い・異音がする
- 閉まりきらない
これらは経年劣化によるモーターの不調や、リレー(電気回路のスイッチ)の故障が主な原因です。特に924/944系はプラスチックパーツの劣化により、リンク機構が破損することもあります。
部品供給と手動開閉
幸い、ポルシェはクラシックモデルへの部品供給体制が比較的整っています。「ポルシェクラシック」純正パーツとしてモーターやギアが入手できる場合も多いですが、高額になる傾向があります。
購入時のチェックポイント:
- スムーズに左右同時に開閉するか。
- 万が一故障した際の「手動開閉ノブ」の位置と操作方法を確認しておく(多くのモデルでボンネット内に緊急用の手動ダイヤルがあります)。
まとめ
リトラクタブルヘッドライトを持つポルシェは、単なる懐古趣味ではなく、ポルシェが空力とデザインに挑戦した革新の証です。
- 914は軽快なミッドシップの原点として。
- 924/944/968は優れた重量配分のハンドリングマシンとして。
- 928は豪華で個性的なグランツーリスモとして。
現代の車にはない「ライトを開く」という儀式は、ドライブへ出かける高揚感を何倍にも高めてくれます。ぜひ、あなたに合った一台を見つけ、古き良きポルシェの世界を楽しんでください。




